ことのはじまり
この朗読劇の事の始まりは、2021年6月、知人の店での黒田征太郎さんのトークによるものでした。
そこで、黒田さんは野坂昭如さんのおはなしをとても熱心に話し出しました。
私は20代のころ、東京でアングラテント芝居まっしぐらの生活をしており、その時の芸名が「リュンコ」。これは野坂昭如さんの直木賞受賞作「エロ仕事師たち」の中にちょこっとだけ出てくる登場人物の名前で‥私が勝手につけたものです。
そして私の出身が「火垂の墓」の舞台になった西宮の満池谷のそば。
これだけで、この作家に思い入れを抱いているわけなんですが、もう一度野坂さんの本を読んでみようと思って出会ったのが、この「戦争童話集」でした。
そして数年前、実家を解体した折、 祖母の遺品の中からインパール作 戦で戦死した叔父の家族へ宛てた 手紙、はがきがごっそりと出てき たのです。
古びたそれらの手紙類には全てに 「軍事郵便 検閲済み」という判子 がおされ、家族への思いや、いたわり等で綴られていました。さらに、叔父の軍歴を取り寄せると「、軍事郵便 検閲済み」の判子に遮断・封印された、叔父の兵士としての生活、「討伐参加」「脚気などによる入退院」「大腿骨被曝による戦死」などの文言が続々と現れ、あまりにもむごい戦争の実態が浮かび上がってきたのです。
その話を演出家の藤村さんにお話しましたら、その手紙類をすべて読み解いてくださり、とても貴重で大切なものとして、この童話の中に組み込み、一遍の脚本にしてくださいました。(2022年1回目公演『ソルジャーズ・ファミリー』にて)
中に出てくる、私の祖父や叔父の名は実名であり、さらにテーマソングまで出来上がるという、これは望外の喜びでもありました。
38年近くもブランクがあるこの私を再び「リュンコ」として舞台に立たせてくれ、素敵なミュージシャンたちとともに おとがたり として、野坂さんの語り口をお借りして戦争を語ることの不思議に驚いております。 むしろこの年にならないと出来ない事だったのかと、一種、感慨にふけるところもあります。
今、この確かに戦争が勃発している、今、戦争を声高に叫ぶのではなく、このイノチノコトを静かに、地道に語り続けていけたらいいなと、思っております。
リュンコ こと 森 温子